令和6年2月定例会 本会議〔議案質疑〕2024-03-06

 

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◯九十三番(高木ひろし君)
私からは、歳出第四款福祉医療費第九項医薬費のうち、精神障害者の地域移行・地域定着支援事業について伺いたいと思います。
 二〇二二年、障害者権利条約を批准した日本政府が初めて国連に対して行いました政府報告、これを審査した国連の障害者権利委員会は、極めて厳しい勧告を日本政府に突きつけました。
 委員会が最も問題視し、その是正を強く求めたのは、日本における精神科病院の強制入院と、障害者に対する分離教育の実態の二つでありました。
 日本ではかねてから、施設収容型の障害者施策が強く批判され、施設を出て地域で自立した生活を送る権利、これは障害者権利条約十九条に明示されておりますが、この実現のために、障害者の地域移行の取組が鋭意進められてきました。
 しかし、そんな中においても大きく取り残されてきてしまったのが精神障害者であると言えます。
 今回、国連から是正を求められた日本の精神科病院の入院者は、現在、二〇二二年の統計では二十九万人、これは国際的にも異常に多く、入院期間も非常に長いという実態があります。
 ヨーロッパでは一九七〇年代に、地域への移行、開放が、精神障害者の、これが急速に進みました。人口当たりの精神科病床で見ると、日本の二割から三割にまで減っております。
 平均入院期間も、日本が二百七十七日であるのに対してOECD平均では三十二日と、十倍近い開きがあります。日本では、五年以上精神科病院に入院を続けている人は八万人を超え、その多くが、病院から出ることなく、病院の中で人生を終えているという実態があります。
 そして、その入院者の少なくとも半数以上は、地域でのサポート条件さえ整えば、入院していなくても地域での生活が可能な、いわゆる社会的入院であると言われております。  日本とOECDの諸国との間でどうしてこんなに大きな差ができてしまったのでしょうか。
 ヨーロッパにおけるこうした精神科病院の改革運動のきっかけとなったイタリアの一つの事例を、有名な話でありますが御紹介しておきたいと思います。
 一九七一年、イタリア北部のトリエステ州立精神病院の院長に、フランコ・バザーリアさんという方が就任をいたしました。バザーリアは、その就任の挨拶でこう述べました。私はここをいい病院にするために来たのではない、廃院にするために来たのだと。
 当時のイタリアでは、非人間的で劣悪な状態の公立の精神科病棟が数多くあり、社会治安のためにはそれが必要だという偏見がまだ根強く存在していました。こうした状態に対するバザーリアの精力的な戦いが始まりました。この精神病棟にいた千五百人の入院患者の約半数は強制入院によるものでしたが、六年間の間にこの全ての患者は病院を出てトリエステのまちの中に移り住み、病院のスタッフも全て地域で患者を支えるセンターのスタッフへと転換をし、ついに六年後、この精神病院は閉鎖となったのであります。
 こうしたバザーリアの取組の背景にはもちろん、州立病院でありますから、これを強力に支えた知事の政治的決断があったことは言うまでもありません。
 この運動はイタリア全土に広がり、一九七八年には公立精神病院への入院を禁止する法律、通称バザーリア法がイタリア国会で成立したのであります。
 このイタリアにおける取組がモデルとなり、精神病院解体を目指す動きが全世界へと広がっていきました。
 この日本にも、精神障害者が精神科病棟を出て地域で暮らし、自ら事業の担い手となって地域おこしに取り組んでいる貴重な実践例があります。北海道の襟裳岬に近い浦河町にあるべてるの家という施設、事業であります。数年前に私はこの地を訪れましたけれども、統合失調症を抱える患者御自身が、訪問した私たちを丁寧に案内し、病気と、特に統合失調症の場合には幻聴が時々現れて混乱するということが病状としてありますけど、こうした病状と付き合いながらする生活の様子や、地元産の昆布の販売などの作業について、私たちに笑顔で説明してくださる姿が非常に印象的でありました。
 こうした三十年近い取組の結果、この浦河町の病院にあった百三十床の精神科病床は、二〇一四年、ついにゼロとなったのであります。
 国連の権利委員会が強く是正を求めたのは、こうした日本の精神科病院への強制入院の制度であり、精神障害者に対する地域におけるケアサポートの圧倒的不十分さであったのであります。
 そして、この勧告は、日本政府だけではなく、当然本県行政にも向けられていると言わなければなりません。
 愛知県内の精神科病院の入院者数は二〇二二年六月時点で一万三百十六人おり、その中で一年以上入院している人はその六割を占めております。こうした状況を改善するために、県は次年度予算にも、精神障害者の地域移行・地域定着支援事業に引き続き取り組むとしていますが、どのように取り組んでいるのか伺いたいと思います。
 質問の二、同じく第四款の福祉医療費の中で、医薬費に、精神保健事業費、これがあります。そこに規定されているのは、精神医療審査会という県の審査会であります。
 日本の精神科病院の入院者のうち、通常の入院、医療と同様の任意による入院は、約半数にすぎません。残りの半数は、措置入院と医療保護入院と言われる、いわゆる強制入院であります。つまり、本人の意思ではなく、精神保健指定医という医師の一人の判断と、それから、家族の誰かが同意することによって、警察力を借りて入院させられた人々も少なくありません。
 近年、この医療保護入院が増えて、精神科入院者数が大きく減少しない要因となっております。
 強制入院のうちでも措置入院というのは、患者が、自傷他害のおそれ、つまり自らを傷つけたり他人に害を及ぼすというおそれがある場合にやむを得ぬ措置として知事の判断によって行われるのに対して、医療保護入院は、医療上の必要と保護と称して、精神保健指定医一名の判断と家族等の誰かが同意すれば患者を強制的に入院させる制度であります。  これは、本人の意思に反して、入院、すなわち隔離や拘束などを伴う状態に置くことを意味しますので、重大な人権を制限する行為になります。したがって、それが本当に妥当な措置であるのか、必要性があるのか、これを厳密に審査するために、都道府県に設置された精神医療審査会にそれを届け出て、その審査を受けなければならないとされております。また、この審査会は、入院の際だけでなく、患者本人や家族等から退院の請求や処遇の改善の訴えがあったときにもこれを審査して知事に報告して、知事が必要な措置を取るという重要な任務も負っております。
 さて、この精神保健福祉法によって愛知県に設置されている愛知県精神医療審査会の実態について質問をしたいと思います。
 この審査会は、精神科医師十五名、弁護士等法律専門家五名、そしてその他の学識経験者五名の合計二十五名によって構成され、五名ずつの合議体、すなわちチームによって、分担して年間数千件に上る審査を実施しているようであります。
 そして、その審査結果を見て、私は驚きました。
 二〇二二年度では、医療保護入院をするという届けが五千五百三件出されて、これを書面で審査していますけれども、この措置が不適当だと、入院が不適当で必要ないというふうに結論したのは一件もありません。全ての届けをそのまま追認しています。
 さらに深刻だと思うのは、入院者や家族代理人等から病院を退院したい等の請求が六十七件出されておりますけれども、これは入院先での二時間程度の意見聴取を行った上で審査会において審査をされましたけれども、退院が認められたケースは二二年度にはゼロ。しかも、この年だけではない。五年間遡りましたけれども、記録の保存期限が五年ですので、僅か一件が発見された、確認されたのみでありました。
 これでは、病院に閉じ込められた精神障害者がその病院を出て、地域で人間らしく暮らすという願いを諦めよと言っているに等しいのではないかと思います。
 精神保健福祉法第十二条では、この精神医療審査会は精神障害者本人の人権擁護の機関だと、こうされておりますが、その役割を果たしていると本当に言えるのでしょうか。審査の過程での本人の代理としての弁護士さんが代理するケースがありますけれども、この代理に対する情報開示の問題を含めて、愛知県精神医療審査会のこうした在り方、運用について県はどのように考えているのかお答えをいただきたいと思います。
 三番目は、同じく福祉医療費の中の高齢福祉費の中に認知症バリアフリー事業の一つとして成年後見制度に関わる取組があります。
 今から二十五年前、地方分権改革とともに、社会福祉サービスがそれまでの措置から契約へと転換し、介護保険サービスが始まったことに伴って、サービスの選択や契約に困難のある利用者の権利擁護の仕組みが必要になりました。また、事理弁識能力、これは法律的に物事を判断する力のことをいいますが、これが低い人の権利擁護の制度として、民法の禁治産・準禁治産制度に代わりまして、成年後見制度がスタートいたしました。
 従来の禁治産・準禁治産などの制度が専ら本人の財産の管理を目的とするものであったのに対して、成年後見制度は本人の権利擁護のための制度と大きく転換していることが重要であります。
 裁判所が作成したパンフレットによりますと、成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等によって判断能力が不十分な方を法律的に支援する制度であると書かれています。具体的には、家庭裁判所により選任された者、これは、親族であったり、弁護士や司法書士などの専門家、あるいはNPOなどの後見法人や市民後見人が当たる場合もあります、これが、後見と保佐と補助という、この三段階の、これは本人の判断能力の高低に応じて三つの類型で分けられて、本人に代わって、代理権や同意権、取消権などが付与されて、本人の財産保護や身上監護などの本人の利益の保護や支援に当たる制度であります。
 令和五年度の障害者白書によりますと、現在の日本には、この知的障害者が百九万人、精神障害者は六百十五万人、そして、急速に増える認知症患者は六百万人以上と言われております。
 成年後見制度は、こうした極めて多くの人々の権利擁護にとって欠かせない制度であると、そして、その活用が期待されてきたのでありますが、現実にはなかなかこれが広がっているとは言えません。
 二〇一六年には成年後見制度利用促進法も国会において成立いたしましたけれども、毎年の新規申立件数は四万人程度で頭打ち状態となっております。制度利用者は、これまでの累計で、現在利用されている方は二十三万人にやっとなってきたというところであります。
 私自身、NPOの理事として、精神科病院を退院して一人暮らしをする、名古屋市内で一人暮らしをする精神障害の方の補助人を担当する中で、本人の意思決定支援をできる限り尊重するような後見の在り方や、あるいは後見費用への、これ、本人の負担に本来なっておりますので、これを公的助成によって財産や経済力のない人にも利用しやすくするなど、後見人としての責任の重さと、この制度の、現在の制度の課題がまだまだ多いことを痛感させられている毎日であります。
 けれども、今回取り上げた精神科病院に入院中の障害者の代理として退院請求ができるなど、家族以外の支援の形としては成年後見制度がもっと活用されるべきだとも考えております。
 そこで伺います。
 県は来年度から市民後見人養成研修を初めて実施することになっておりますが、この市民後見人はこの成年後見制度の中でどのように位置づけられ、その活用についてどのように県は取り組んでいかれるのか伺いたいと思います。

◯保健医療局長(吉田宏君)
初めに、精神科病院入院者の地域移行・地域定着支援事業について、県の取組をお答えいたします。
精神科病院に入院している方が、退院後、地域で安心して自分らしく暮らしていくためには、医療、福祉、住居、就労などが包括的に確保された、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が重要でございます。システムの構築に当たりましては、市町村ごとの保健・医療・福祉関係者等による協議の場を通じまして、重層的な連携による支援が必要であり、県は市町村の取組をバックアップしていく役割を担っております。
そこで、県では、精神障害者の地域移行・地域定着支援事業として、全県及び各保健所における地域移行推進のための会議の開催、医療と福祉の連携を促進するための研修会の実施のほか、関係職員の人材育成やピアサポーターの養成を行い、精神科病院に入院している方の地域移行、地域定着の推進に取り組んでおります。
次に、精神医療審査会の在り方、運用についてお答えいたします。
精神医療審査会は、精神保健福祉法に基づきまして、精神障害者の医療や保健に関する学識経験者、法律専門家から構成され、措置入院者及び医療保護入院者について、入院が必要であるかや処遇が適当であるかに関して審査を行っております。
精神科病院に入院中の方から退院の請求があった場合には、請求の内容を適切に把握するための意見聴取、必要に応じた診察と帳簿書類の確認の上、医療の提供及び人権擁護の観点から審査を行っております。
入院患者の代理人弁護士が退院請求する際には、その代理人が意見を述べる上で必要である場合、審査会の資料であります病院管理者及び家族の意見書の開示を求めることができますが、現状、資料作成者の同意を必要としております。
 一方、代理人弁護士が、より情報を入手しやすくすることが必要であるといった御意見もございますので、資料作成者の同意の必要性や手続の簡素化について、現在、審査会において検討中でございます。
今後も県では、患者本人の意思によらない入院形態もあるという精神医療の特性を十分踏まえまして、精神科病院に入院されている方の人権擁護に一層配慮しつつ、適正な医療及び保護が確保されるよう、精神医療審査会の運営を行ってまいります。

◯福祉局長(植羅哲也君)
認知症バリアフリー推進事業についてお答えをいたします。
成年後見制度において市民後見人は、地域住民が地域住民を支えるという観点から、市民後見人養成研修等により一定の知識を身につけ、家庭裁判所に選任された地域住民であって、地域における支え合いを担うものと位置づけられております。
議員御指摘のように、精神保健福祉法の規定に基づく入院中の方の退院請求につきましても、市民後見人がその役割を果たすことが重要であると認識をしております。
 国が二〇二二年三月に閣議決定いたしました第二期成年後見制度利用促進基本計画では、市町村が中心となって市民後見人の養成や活動の支援に取り組むことが望ましいとされております。
しかしながら、県内市町村のうち市民後見人の養成に取り組んでおりますのは三割弱にとどまっており、マンパワー不足やノウハウ不足などによって、自力で取り組めない市町村が多数存在いたしますことから、来年度、県として、市民後見人の養成研修に広域的に取り組むことといたします。
この研修の受講者や市町村に対し、市民後見人に選任された場合、精神保健福祉法に基づく退院請求ができることをしっかりと周知いたしますことで、市町村における市民後見人の活動への支援が促進されるよう取り組んでまいります。



◯九十三番(高木ひろし君)
御答弁いただきましたけれども、これは非常に重たい課題でありますので、一度のやり取りで大きな前進を見込めるとは当初から思っておりませんけれども、特に今の御答弁の中で、精神医療審査会、これが、県が直接担当しております機関として、本人の権利擁護のために非常に重要な使命を帯びている機関の活動ぶりについては極めて、私は問題が多い、今の御答弁でもこれは改善の見通しはなかなか立ち得ないというふうに言わざるを得ないと思います。
 今日は、この、私、質問をするに当たりまして、精神障害者御本人と同じように当事者として非常に苦しい目を、そして差別を受けている精神障害者の家族会の方々からいろんな実情をお聞きいたしました。そして、今日も傍聴席には傍聴に来ていただいて県の答弁を伺っていると思いますが、この精神医療審査会、この機能がなぜ、こんなふうにも何十件も出ている審査請求に対して実に冷たく、全てを却下するというような結論しか出せないのかということであります。
 ちなみに私は、都道府県、全国の都道府県、四十七の都道府県と二十の政令指定都市には全て精神医療審査会が設置されておりまして、それがどのような構成で、そして、どのような件数を審査して、どういう結論を導いているかというものの統計が実はあるんですね。愛知県は、今のお話にありましたように、極めて、ほんの三%か二%ぐらいの、恐らく、これは認容率というんですけど、本人の訴え出た処遇改善や退院したいという願いに対して、退院をさせましょうと、あるいは処遇を改善しましょうというふうに本人の意向に沿った結論を出したケースが僅か二、三%しかないんですよ。
 ほかの県ではどうかといいますと、これ、例えば大阪市などは三七・五%の認容率。大阪全体でも、大阪は特に審査件数自体が極端に多いんですけれども、五年間で千二百二十三件の審査を行って、そのうち百三十二件、一割以上の件数を認容しているんです。そして、この訴えが実現しているという機能が果たされていると言えます。
 これに対して、愛知県の実態は誠にお粗末。
 一つの例として、家族会の代表の方をこの審査会に入れるというアイデアがあります。これは和歌山県でも実施されておりますので、ぜひとも愛知県でもこの審査会の改善の一つの案として御検討いただきたいと要望して終わります。

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